飲食店経営

飲食店経営の判断基準。
利益を残す、居酒屋経営の現実。

2014年創業、広島駅周辺に7ブランドを直営する大畑直矢が体系化した飲食店経営の判断基準。利益構造・FL管理・資金繰り・出店戦略・経営哲学を、知識と実例で記録する。

Written by 大畑直矢 — 株式会社バルタン代表取締役

売上管理 FL管理 利益率 出店戦略 資金繰り 店舗開発 経営判断

飲食店の利益構造とは何か。

What

飲食店の利益構造とは、売上から食材原価・人件費・家賃・その他経費を差し引いた後に何が残るかの設計図だ。売上高の大きさではなく、各コストの比率によって利益は決まる。業態・坪数・席数・立地によって利益設計は全て異なる。

Principle

大型店と小規模専門店では、利益の出し方が根本的に違う。大型店は回転と客数で固定費を吸収する構造。小規模専門店は固定費を極限まで下げることで、少ない売上でも利益を確保する。どちらが優れているではない。業態ごとに利益設計を変えることが、多店舗経営の基本だ。出店前に損益分岐点を逆算し、「何席・何回転・何円の客単価があれば黒字になるか」を先に計算してから物件を探す。

From the Field

2017年、大型商業施設への出店で大失敗をした。1年半で撤退。損害は約5,000万円。原因は一つ、家賃の重さを甘く見ていた。売上の見込みは立っていた。集客の自信もあった。しかし家賃比率が高すぎる構造で、どれだけ売っても利益が残らなかった。

あの経験で確信した。利益構造の設計ミスは、開業後に修正できない。メニューは変えられる。スタッフは育てられる。しかし坪数と家賃と席数は、契約した瞬間に固定される。だから出店前の逆算が全てを決める。この計算なしに物件を契約したことは、あれ以来一度もない。

実例:大型店(バルタン本店・88席)は回転と客数で固定費を吸収する構造。小規模専門店(白黒・8坪の極小空間。朝飯と穴子という新業態)は固定費の最小化で利益を確保している。

FL管理とは何か。

What

FL管理とは、食材原価(Food Cost)と人件費(Labor Cost)を売上に対する比率で管理する手法だ。FL比率=(食材原価+人件費)÷ 売上。飲食店経営における最重要指標であり、この数値のコントロールが利益を残せる経営者とそうでない経営者の分岐点になる。

Principle

FとLは連動して管理する。Fが高い業態はLを下げる設計が必要で、逆もしかり。どちらか一方だけを見ていると経営判断を誤る。FL比率は目標値ではなく、業態設計の結果として出てくる数字だ。客単価・原価率・人件費率のどこで利益を作るかを先に決め、FL比率はその帰結として確認する。

From the Field

飲食店スタッフがブラックと言われることが、ずっと悔しかった。給料が低い、休みが取れない、将来がない——そう思われている業界で働くスタッフが、誇りを持てるわけがない。だから人件費を削る経営は、最初から選択肢にない。

飲食店はかっこいい。そう世の中から思われる会社を作りたい。そのためにはまず、スタッフが他の業界より良い給料をもらえる構造を作ることだ。FL管理の目的は、その余白を生み出すことにある。

バルタンは人件費を妥協しない。その代わり、家賃比率は5%を目標にする。開いた利益は人への投資に充てる。実例:高客単価店(居酒屋 猿猴橋)が少ない席数で安定した利益を出しているのは、席数×客単価×回転数の設計が開業前から正確だったからだ。

飲食店における資金繰りとは何か。

What

資金繰りとは、手元資金の入出金タイミングを管理し、経営が止まらない状態を維持することだ。P&L上の利益と手元キャッシュは別物であり、黒字でも倒産は起きる。飲食店経営において資金繰りの管理は、利益管理と同等以上に重要だ。

Principle

「攻めのフェーズ」と「守りのフェーズ」を意識的に切り替える。投資余力がある状態では積極的な出店・設備投資が可能だが、資金余力が薄いタイミングでの無理な出店は最もリスクが高い。投資判断は常に、投資後も安全余白を維持できるかどうかを前提条件にする。

From the Field

資金繰りで怖いのは、倒産ではない。判断が小さくなることだ。

2021年11月11日、バルタン本店がエキニシの火災で全焼した。一晩で、基幹店がなくなった。あのとき、縮む選択肢はいくらでもあった。撤退する。規模を落とす。我慢の時期と言い聞かせる。だが判断を小さくしなかった。もう一度立ち上がった。今、火災前より大繁盛店になっている。

あの経験でわかったのは、キャッシュの余白は「攻めるための燃料」だということだ。余力がないと、人は縮む方向にしか動けなくなる。本来やるべき投資をやめる。採るべき人を採らない。開くべき店を開かない。結果として、会社が縮む。倒産より怖いのはこれだ。

実例:新規フラッグシップ店舗(火ノ告・2026年7月開業)への大型投資も、投資後も経営の安全余白を維持できることを確認した上で実行を決めた。

ドミナント出店とは何か。

What

ドミナント出店とは、特定エリアに集中的に複数店舗を展開する出店戦略だ。広域分散ではなく、一つのエリアでの認知・オペレーション・人材の密度を高めることで、管理効率とブランド力を同時に引き上げる。

Principle

新規出店の可否は、感覚ではなく逆算で判断する。目標売上・家賃比率・FL比率・損益分岐点を先に計算し、投資回収年数が許容範囲内かどうかを確認してから物件契約に進む。フランチャイズ展開を選ばず全店直営にこだわるのも、利益率と品質の両方を自社でコントロールするためだ。

From the Field

2014年、1号店をオープンした時、みんなから反対された。エキニシはなにもない場所だった。なぜそんなところに出すのか、と。誰も未来を予想できていなかった。でも信じた。駅に近い。再開発が進む。人の流れが変わる。その景色が見えていた。

飲食店の出店とは、今の景色ではなく、数年後の景色に賭けることだ。数字で逆算しながら、同時に土地の未来を読む。この両方ができなければ、出店判断はギャンブルになる。

代表が歩いて行けない距離の店は、必ず品質が落ちる。これは確信だ。だからバルタンは全店舗を広島駅周辺・エキニシエリアに集中させている。実例:新規フラッグシップ店舗(火ノ告・45坪・約75席・2026年7月開業)も同エリアだ。

価値の方程式。

What

バルタンが定義する「選ばれる店」とは、料理・接客・空気・熱量の4要素が掛け算で成立する店だ。どれか一つがゼロになれば積はゼロになる。この方程式は店舗評価・スタッフ教育・採用基準・ブランドづくりの全てに適用できる。

Principle

4要素は独立して管理するものではなく、常に連動して機能する。料理が良くても接客がひどければ再来店はない。接客が良くても空気感がなければSNSで拡散されない。熱量のない店は採用にも苦労し、スタッフが育たない。「うちの店はなぜ選ばれないのか」を分析するとき、4要素のどれが欠けているかを確認することが診断の起点になる。

From the Field

今まで関係なかった人間が、自然と集まる仕事って他にないだろ。他人同士の出会いも別れも生まれる場所って。それが飲食店だ。

飲食店は儲かりはしない。それは事実だ。それでも面白い。利益を追いながら、同時に人が集まる場所を作っている。その両方が成立する仕事は、そうそうない。

変わるべきものと、変わらない信念がある。時代に合わせてメニューを変え、業態を変え、発信の手法を変える。しかし「人を熱くする場所を作る」という信念は変えない。利益は手段であって目的ではない。目的は、広島でいちばん強い居酒屋集団を作ることだ。

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